たとえば、あるマンションの一室を競落したとしよう。そこには、買受けに対抗できない賃借人が住んでいる。法律的にはそこに住む権利がないことになる。そこで競落人は、居住者に対して退去を要求する。だが、その時、相手が要求を拒否したらどうすればいいのか。直接行動で不法占拠者を排除する権利は民間人には与えられていない。たとえどんなに自分が正しくても、排除したければ民事執行法に基づいて法的処理をしなければならないのだ。
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当然そのための費用も必要になる。しかも、強制執行は物財に対してこそできるものの、人間を強制的に排除することはできない。相手が強硬に居座った場合、一切手出しできなくなってしまう。こうなると後は、不法侵入などのカドで刑事事件として相手を逮捕してもらうしかない。問題はここに至るまでの過程にある。この間、どれだけのカネと時間がかかるか想像していただきたい。たいていの人間なら、こんな手間をかけるぐらいなら立ち退き料を払ってでも出ていってもらったほうがいいと考えるのが当たり前なのだ。「いくら頼まれたって、どうしてもこなせない場合だってある。まあ、居住占拠というのは一ヵ所しかできないからね。荷物だけ入れておくカラ占拠で済む物件ならそれでいいんだが、どうしても人間が中にいないとまずい場合もあるよ。まあ、どんな人間が競落したのかによるんだけどね。そういう場合にはホームレスを雇うんだよ。しばらく、ここで寝泊まりしてくれればカネをやるからともちかけるんだ。長年ホームレスに慣れちゃった人間だと難しいんだが、なりたてのホームレスなら大丈夫だよ。人間が入ってれば、それだけ立ち退き料も上積みされるから」